
なぜ今もAkai MPC60を使い続けるのか by Chikaramanga (Giant Panda)
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ビートを作り始めたのは1995年のことです。最初に使っていた機材は、AkaiのS3000XLサンプラーと、Opcode Systemsのシーケンサーソフト「Vision」でした。Sシリーズのサンプラーにはシーケンサー機能がなかったため、Visionでシーケンスを組んでいました。Giant Pandaの『88 Remix』までの作品は、すべてこのセットアップで作っていました。
2003年、レーベルパートナーのSausenから初めてのMPC60を譲り受けました。彼が誰かからもらった壊れたMPC60を、修理して使い始めたのがきっかけです。それからは、MPC60でドラムを組み、その他の音はS3000で鳴らすという2台構成でビートを作るようになりました。
その後、House Shoesのデビューアルバム『Let It Go』(TRES、2012年)の制作に関わったとき、彼のビートを改めてじっくり聴き、シンプルな構成でもしっかりグルーヴを持ったビートが多いことに気づきました。ビートは複雑である必要はないと以前からわかってはいたものの、そのときに改めてその本質を実感しました。そして、自分のスタイルを見つめ直し、MPC60だけでビートを作り始めました。それ以来しばらくの間、すべてMPC60のみで制作し、『Doronko Beats』の全トラックもMPC60だけで作りました。
2020年にMaschine Micro MK3を購入してからは、ビートの構築自体はMaschineで行っています。ただし、すべてのサンプルはこれまでと同様に、45回転 + ピッチ+8でレコードからMPC60に取り込み、その後MPC60内で大きくピッチを落とした状態にしてからMaschineに取り込むという手法をとっています。12bit特有の粗さと、ピッチダウンによる独特の質感を得るために、このプロセスは今も欠かせません。
MPC60は1988年にAkaiとRoger Linnの共同開発によって誕生した、初代MPCです。12bitのサンプリングを採用しているのは、MPCシリーズの中でもMPC60とMPC60 IIだけで、16bitのMPC2000や3000、4000と比べて、音の輪郭が荒く、ザラつきのある質感が得られます。
MPC60の大きな制限の一つが、サンプリング時間の短さ(最大26.2秒)です。MPC60だけでビートを作っていたときは、その制限を補うために、レコードは45回転+ピッチ+8でサンプリングし、MPC内部でスロー再生していました。**前述の通り、この方法は時間を節約できるだけでなく、ピッチダウンによってザラついた質感が加わり、自分の好みにぴったりのサウンドになります。**16bitの機材でも似たような質感は出せますが、やはり12bitでやると一味違います。
また、MPC60は特有のグルーヴやスウィング感をビートに加えてくれることでも知られています。仕組みは正確にはわかりませんが、E-Mu SP-12やSP-1200のようなヴィンテージドラムマシンに共通する魅力のひとつです。
僕のMPC60は、LAのForat ElectronicsのBruceによりフルカスタマイズされています。彼はRoger Linnと一緒にMPC60やMPC3000の開発にも関わった人物で、これらの機材についてすべてを知り尽くしています。LAに住んでいたときは、故障したときや新たなカスタマイズをしたいときなど、必要なときに機材を持ち込めて、本当にありがたいことでした。
以下が、Bruceに施してもらったカスタマイズ内容です:
- 最新のOS(OS 3.15)のインストール
- サンプリング時間を最大26.2秒に拡張
- SCSIの追加
- フロッピードライブをフラッシュドライブに交換
- 明るいグリーンの液晶画面に交換
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全アウトプットに+15dBのゲインを追加
この中で一番効果を実感しているのが、+15dBのゲイン追加です。この改造により、工場出荷時よりも15dB大きな信号を出力できるようになります。People Under the StairsのThes Oneに、ミックスにおいて「ゲイン・ステージングが極めて重要だ」と教わったことがあります。NeveやTridentのような高級コンソールなら心配無用ですが、自分のような一般的な環境ではそうはいきません。
例えば、安価なミキサーやボードでゲインを上げても、VUメーター上は音量が上がっても、実際には音の「芯」が失われてしまうことがあります。LAにいたときに使っていたAries 16.8.16もそこそこのミキサーですが、ゲインの質はあまり良くありません。そのため、MPC側からしっかり大きな信号を出すことで、ミキサー側のゲインを必要以上に上げずに済むのです。
MPC60のこの改造は、自分のサウンドを保つためにも非常に重要なポイントになっています。ちなみに『Doronko Beats』はPCを使わず、Ariesのボードと、手持ちのアウトボードギアを駆使して全曲自分でミックスしました。個人的にもかなり気に入っている仕上がりですが、このMPC60の+15dBカスタマイズがなければ、ここまでうまくいかなかったと思います。